吸着パッドの高精度製作を可能にする設備力・技術力
半導体や電子部品の製造ラインでワークを保持・搬送する吸着パッド(吸着PAD)。高硬度材や非磁性材への加工、深い細穴、傷をつけない吸着面と、要求は非常に厳しいものです。本コラムでは、高精度な吸着パッド製作を可能にする設備力と技術力を、実際の加工事例とともに解説します。
吸着パッド(吸着PAD)とは
吸着パッド(吸着PAD)とは、真空吸引の力でワークを保持し、搬送や位置決めを行うための部品です。内部に設けられた吸引用の細穴から空気を吸い込み、ワークを吸着面に密着させて保持します。用途に応じて、先端の細い吸着ノズルや、広い面で保持する吸着ステージ(真空チャック)など形態はさまざまで、いずれも電子部品の組立機や搬送機のバキュームパーツとして使われます。
一見シンプルな部品ですが、実際にはワークと直接触れ、繰り返し使用される消耗部品です。そのため吸着パッドの出来栄えは、ライン全体の生産性と歩留まりを左右するといっても過言ではありません。
吸着パッドに高精度が求められる理由
まず、吸引穴の位置精度が、そのまま吸着性能や組立精度に直結します。穴の位置がわずかにずれるだけで狙った位置でワークを保持できなくなり、搬送先での位置ずれや組立不良を招きます。
次に、吸着面の仕上がり品質です。面が粗いままではワークに傷や打痕を付ける恐れがあり、電子部品やレンズのように表面品質が重要なワークでは、パッド側の面性状が製品品質を直接左右します。加えて平面度や寸法精度が不足すると、エア漏れによる吸着力の低下やワーク落下につながります。小型化・薄型化が進むほど、これらの要求は年々厳しくなっています。
吸着パッドの材質|高硬度材・非磁性材が選ばれる理由
吸着パッドはワークと繰り返し接触する消耗部品のため、摩耗で吸着面が荒れないよう耐摩耗性の高い材質が求められます。実際の現場では、次のような高硬度材が多く採用されています。
| 材質 | 特徴 |
|---|---|
| SUS440C | 熱処理によりHRC55〜58以上に達する高硬度ステンレス。耐食性と耐摩耗性を両立できる。 |
| SKD11 | 合金工具鋼の代表格。耐摩耗性と靭性のバランスに優れ、治具・パーツに広く用いられる。 |
| 非磁性材 | 磁気を嫌う工程で採用される。HPM75など、磁気の影響を避けたい搬送・検査用途で選ばれる。 |
近年とくにご相談が増えているのが非磁性材です。半導体や精密電子部品の工程では、わずかな磁気がワークや測定に影響するため、吸着パッドにも非磁性が求められます。ただし、これらの材質は加工が難しく、対応できる業者が限られるのが実情です。
吸着パッド製作でつまずきやすい4つの加工課題
課題1:深い細穴の「穴曲がり」
吸着機能を担う細穴は、径が小さく深い貫通穴となることが少なくありません。Φ0.3mmの細穴で10mmを超える深さを貫通させる場合、ドリルがわずかに逃げるだけで穴曲がりが生じ、位置精度も直進性も確保できなくなります。
課題2:焼入れ材への加工
耐摩耗性を確保するために焼入れを施した高硬度材は、通常の切削工具では刃が立ちません。また熱処理の前後で寸法変化が生じるため、どの工程で何を加工するかを誤ると、最終的な公差を満たせなくなります。
課題3:非磁性材は「研磨がしにくい」
非磁性材が敬遠されがちな最大の理由が、研磨工程にあります。研削盤ではマグネットチャックでワークを固定するのが一般的ですが、非磁性材は磁石に付かないため、そもそも保持ができません。無理に固定すればワークがずれたり歪んだりするため、多くの加工業者が対応を避ける工程となっています。
課題4:工程順序と吸着面の仕上げ
形状加工・穴加工・抜き加工をどの順序で行うかによって、出せる精度は大きく変わります。さらに、ワークを傷つけないためには吸着面や先端部を滑らかに仕上げる必要がありますが、放電加工特有の梨地面では傷の懸念があり、人手の磨きを追加すれば納期とコストが膨らみます。
これら4つの課題は、いずれも「高性能な設備」と「それを使いこなす工程設計・治具のノウハウ」の両方がなければ解決できません。次章から、当社がどのようにこれらへ応えているかをご紹介します。
高精度な吸着パッド製作を可能にする「設備力」
精密加工部品特急センターを運営する株式会社理工電気は、超精密加工機を中心としたハイエンド設備を社内に揃え、相互補完的に運用することで難易度の高い吸着パッドに対応しています。
1. 超精密加工機による焼入れ材の「直彫り加工」
焼入れ済みSUS440C(HRC55〜58以上)に対しては、毎分6万回転の超精密加工機(芝浦機械 UVM-450Dなど)で直接削り出す「直彫り加工」に対応します。放電や磨き工程を省略でき、大幅な短納期化とコストダウンを実現。放電特有の梨地面にならず、切削のみで綺麗に仕上がる点も大きなメリットです。
2. 細穴・深穴加工設備による微細な吸引穴
Φ0.3mmの細穴では、最大20mm程度までの貫通加工が可能です。さらに細穴専用放電加工機を用いれば、φ0.1mmで深さ5mm(L/D=50、真直度0.02)といった高アスペクト比の深穴にも対応でき、吸着ノズルのような微細部品に強みを発揮します。
3. ワイヤー放電加工機と研削・バフ仕上げ
角部の抜き加工など切削だけでは難しい形状には、超精密ワイヤー放電加工機を活用。さらに研削盤やバフ仕上げにより吸着面・先端部を丁寧に仕上げ、複雑形状でも全体で±0.01mmの寸法公差を確保します。
4. 高精度画像寸法測定器による品質保証
キーエンス社製の高精度画像寸法測定器(LM-1000)や三次元測定機を導入。微細な穴や端面も非接触でミクロン単位に測定でき、全品検査表を添付して納品するため、着荷後すぐに安心してラインへ組み込めます。
高精度な吸着パッドを実現する「技術力」
設備を保有しているだけでは要求精度は満たせません。当社が重視しているのは、設備を活かす工程設計と治具のノウハウです。
1. 非磁性材を「固定する」治具と工夫のノウハウ
磁石に付かない非磁性材は、マグネットチャックが使えないため研磨工程が難点となります。当社では、ワークを歪ませずに保持する専用治具の自社製作や、材質特性に合わせた固定・加工条件の工夫によってこの課題をクリアし、非磁性材の吸着パッドにも高精度で対応しています。他社で断られた非磁性材の加工こそ、ぜひご相談ください。
2. 精度を作り込む「工程順序の最適化」
公差±0.01mmを満たすため、精度に最も影響する細穴加工をあえて最終工程に回す、焼入れ材のネジ下穴は熱処理前に加工しておく、形状加工と穴加工の順序を製品ごとに調整するなど、工程順の最適化によって難しい要求精度を安定して満たします。
3. 穴曲がりを抑える工程管理と一貫対応
加工条件と工程管理を作り込むことで、10mmを超える深さの細穴でも位置精度と直進性を両立。切削からワイヤー加工、仕上げまでを社内で一貫して行えるため、工法をまたいでも精度を積み上げられます。
4. 機能を見据えた仕上げと短納期対応
先端部へのバフ処理など、吸着面としての性能まで見据えた仕上げを行います。また吸着パッドは「ラインを止めないために今すぐ欲しい」という緊急ニーズが多いため、材料在庫の常備と内製化によりスピード供給に応えています。
これらの設備力と技術力を掛け合わせることで、当社は他社が敬遠する難易度の高い吸着パッドにも対応しています。実際の製作事例をご紹介します。
吸着パッドの製作事例
SUS440C製 吸着PADのΦ0.3細穴加工
| 材質 | SUS440C |
| サイズ | 20×5×16mm |
| 加工精度 | ±0.01mm |
| 加工特徴 | φ0.3mmの細穴加工、14mm貫通穴、ワイヤーカット |
吸着機能を持たせるためのΦ0.3mm細穴加工が最大の特徴です。位置精度・直進性が要求されるため、14mmほどの深さの貫通穴では穴曲がりを抑制する工程管理が重要となりました。下面には2mmの開口があり、精度と真直度の両立が求められました。
角部の抜き加工はワイヤーカットで実施し、全体の寸法公差±0.01mmを確保。公差を満たすため工程順序にも工夫を加え、細穴加工は最終工程で対応しました。また吸着PADとしての機能を損なわないよう先端部にはバフ処理を施し、切削からワイヤー加工、仕上げまで一貫して高精度に対応しています。Φ0.3細穴では最大20mm程度までの貫通加工が可能です。
吸着PAD|SUS440C(焼入れ材)直彫り加工
| 品名 | 吸着PAD |
| 材質 | SUS440C |
| サイズ | 30×20×30mm |
| 加工精度 | ±0.01mm |
製造工程でワークを吸着・保持する吸着PADです。材質はSUS440Cの焼入れ材で、高硬度ながら高い加工精度が求められました。裏面には10×10mmの領域にネジ加工を行っており、その下穴加工は熱処理前に実施。位置の正確さが吸着性能や組立精度に直結します。
さらに形状加工と穴加工の順序を調整して工程を最適化し、全体として±0.01mmの精度を確保。精密な加工が求められたため、焼入れ後の材料に対し直彫りで対応しました。非磁性材の加工も承っておりますので、ぜひご相談ください。
吸着ノズル -SKD11切削加工品-
| 製品カテゴリー | 吸着パッド・吸着ノズル |
| 材質 | SKD-11 |
| サイズ | 30×30×10 |
| 業界 | 電子部品 |
| 形状 | 特殊形状加工/細穴加工・穴加工 |
| 加工精度 | ±0.01mm |
電子部品の組立機パーツ(バキューム)として使用される、SKD-11製の吸着ノズルの切削加工事例です。ポイントは細穴形状をしっかりと仕上げ加工した点です。難削材であるSKD-11に対し、特殊形状加工と細穴・穴加工を組み合わせ、±0.01mmの精度で仕上げています。
「非磁性材の吸着パッドを他社で断られた」「深い細穴を穴曲がりなく通したい」「焼入れ材を短納期で調達したい」——そうしたご要望に、専門の設備力と技術力でお応えします。図面はもちろん、現品やサンプルからのご相談も可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。